#7 「なぜ私は選手にフルスクワットを教えるのか」

アスリート向け
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こんにちは。S&Cコーチの田所海斗です。

先日、指導しているチームでこんなやり取りがありました。

スクワットを見ていた時に、ある選手が必要以上にお尻を後ろへ引きながらしゃがんでいました。

話を聞いてみると、

「膝はつま先より前に出してはいけないと思っていました」

とのことでした。

もちろん私はそう教えないのですが、ただ、その選手にとっては長い間それが“正しいスクワット”だったようです。

トレーニング指導をしていると、

こういったことは意外と少なくありません。

  • 膝は前に出してはいけない
  • 深くしゃがむと膝を痛める
  • ハーフスクワットの方がスポーツに近い

など、

どこかで聞いた情報を正しいと思ったままトレーニングを続けているケースがあります。

もちろん、その考え方が生まれた背景には理由があります。

ただ、もしスクワットの目的や身体の仕組みを知らないままフォームだけを真似していると、

本来得られるはずだった効果を得られない可能性があります。

そこで今回は、

S&Cコーチとして私が考える

  • なぜスクワットを行うのか
  • なぜ深くしゃがめた方が良いのか
  • 基本的なスクワットのポイント
  • パーシャルスクワットの使い方

について整理してみたいと思います。

そもそもスクワットは何のために行うのか

スクワットの目的は単純に脚を鍛えることだけではありません。

私自身は、

「身体を安全に使いながら体幹に負荷を掛け、垂直方向に下肢の大きな力を発揮する能力を高めること」

だと考えています。

スポーツでは、

  • 走る
  • 跳ぶ
  • 切り返す
  • コンタクトする

といった動作の中で大きな力を発揮します。

そして、その土台となるのが下半身の筋力です。

実際にスクワットの筋力向上は、

  • スプリント能力
  • ジャンプ能力
  • アスレチックパフォーマンス

との関連が報告されています。  

また筋力は傷害予防の観点からも重要です。

もちろん筋力だけで怪我を防げるわけではありません。

しかし十分な筋力がなければ、

外力に耐えることも、
姿勢を維持することも、
適切な減速を行うことも難しくなります。

その意味でスクワットは、

パフォーマンス向上と傷害予防の両方に関わる基礎的なトレーニングと言えると思います。

「深くしゃがめること」に意味がある

近年のレビューでは、

フルスクワットは膝を危険にするどころか、適切なフォームで行われる限り安全性が高く、パフォーマンス向上にも有効であると整理されています。  

個人的にも、

「深くしゃがむこと」

よりも

「深くしゃがめること」

に価値があると考えています。

なぜなら、

深くしゃがめるためには、

  • 足関節背屈
  • 股関節屈曲
  • 体幹コントロール
  • 下肢アライメント

など複数の要素が必要だからです。

つまり、

しゃがめないという現象の裏には、

何らかの制限やエラーが隠れている可能性があります。

その状態で重い重量ばかり追いかけても、

本来獲得したい能力を獲得できないかもしれません。

良いスクワットテクニックとは何か

スクワットのやり方にはバーベルの担ぎ方で様々な種類があります。

しかし、Comfortらのレビューでは、傷害リスクを最小限にしながら主要大筋群を最大限活動させるスクワットとして、いくつかの共通したポイントが示されています。

①自然なスタンス幅を取る

レビューでは、一律の足幅を推奨しているわけではありません。

レビューでは、個人の身体的特徴に合わせた「自然な足幅」を選択することが推奨されています。

骨格や股関節の形状には個人差があるため、全員が同じ足幅で行う必要はありません。

重要なのは、自分にとって自然なスタンスで十分な可動域を確保できることです。

その上で、私は足幅は腰幅〜肩幅程度を基準に、

しっかりしゃがめる足幅を指導対象者に自分で選択してもらいます。

②膝は自然に前へ移動していい

このレビューでも説明されている「膝の前方移動」についてです。

「膝をつま先より前に出してはいけない」という考え方今でもよく聞きます。

事実、このブログを書くきっかけにもなったように、そういう認識でトレーニングをしているアスリートもいました。

レビュー内では、膝の前方移動を意図的に制限すると、

股関節モーメントや体幹前傾が増加し、腰部への負担が大きくなる可能性があると述べられています。

そのため、著書らは、踵が床についた状態で膝が自然に前方へ移動することを推奨しています。

③膝はつま先の方に向ける

レビューでは、膝が内側へ入るニーインは避けるべき動作として示されています。

Comfortらは、スクワット中に膝がつま先の方向へ追従することを推奨しています。

その理由として、レビューの結論部分では、

“the knees tracking over the toes and no knee valgus”

と記載されています。

つまり、

膝が内側へ入るニーイン(knee valgus:膝の外反)を避けること

が重要だと考えられています。

また本文では、スクワット中の股関節外旋角度やスタンス幅が膝周囲の筋活動パターンに影響する可能性が紹介されていますが、膝が内側へ入ること自体を積極的に推奨する記述はありません。

そのため著者らは、

  • 膝とつま先の方向を揃える
  • ニーインを避ける

というアライメントを推奨しています。

私自身もスクワットを指導する際は、

「膝が前に出るかどうか」

よりも、

「膝がどの方向へ動いているか」

を重視しています。

④脊柱はニュートラルを維持する

Comfortらは、

スクワット中に脊柱のニュートラルポジションを維持することを推奨しています。

レビューの結論でも、

“spine in a neutral position”

と明記されています。

その背景として本文では、

膝の前方移動を制限すると体幹前傾が増加し、腰部への剪断ストレス(lumbar shear forces)が増加する可能性が紹介されています。

また、

頭部の位置によって体幹姿勢が変化することも報告されています。

具体的には、

  • 下を見る
    → 股関節屈曲が増加
    → 体幹前傾が増加
  • 前方またはやや上方を見る
    → より体幹が起きた姿勢になる

ことが紹介されています。

そのため著者らは、

前方またはやや上方を見ることで過度な体幹前傾を防ぎ、

脊柱の自然なアライメントを維持することを推奨しています。

ここで重要なのは、

「胸を張る」

ことではなく、

不要な腰椎屈曲や過伸展を避けること

だと私は解釈しています。

⑤可能であればフルスクワットを行う

このレビューの中で最も興味深かった点が、

フルスクワットに対する著者らの立場です。

私がフルスクワットを指導した方がいいと考えている理由になっています。

レビューの結論では、

“full depth (115–125° knee flexion)”

が推奨されています。

著者らがそのように結論づけた理由は大きく3つあります。

理由① ACLへの負荷は深いスクワットで増加しない

本文では、

ACL(前十字靭帯)への負荷は

膝屈曲50°未満で最も高くなる

ことが紹介されています。

一方で、

深いスクワット局面ではACLへの負荷は低下するとされています。

つまり、

「深くしゃがむとACLが危険になる」

という考え方を支持するデータは少ないというのが著者らの立場です。

理由② フルスクワットによる傷害リスク増加を示す証拠が少ない

レビューでは、

プロサッカー選手を対象とした研究が紹介されています。

その研究では、

スクワットトレーニングを継続しても

脛骨の前方移動(ACL損傷リスク指標)の増加は認められませんでした。

むしろ、

大腿脛骨関節の安定性改善が報告されています。

著者らはこれを根拠の一つとして、

フルスクワットが危険であるという主張に疑問を投げかけています。

理由③ 深いスクワットはパフォーマンス向上との関連が示されている

レビューでは、

深いスクワットによって

  • 1RM向上
  • 垂直跳び向上
  • スプリント能力向上

が報告された研究が複数紹介されています。

また、

筋活動の観点からも、

スクワット深度の増加によって

大臀筋や内側広筋などの活動増加が報告されています。

そのため著者らは、

十分な可動域が確保できるのであれば、

フルスクワットを実施する価値があると結論づけています。

このレビューから私が読み取ったこと

Comfortらは、

「誰でも絶対にフルスクワットを行うべき」

とは書いていません。

しかし、

  • 傷害リスクを高める明確な証拠は少ない
  • パフォーマンス向上のメリットは多い

という根拠から、

身体的な制限がないのであればフルスクワットを基本として考えるべき

という立場を取っています。

私自身も現場では同様に考えており、

まずはしっかりしゃがめる身体を作ることを優先しています。

私の考え

私自身は、

まずフルスクワットで

  • 可動域
  • 基本動作
  • 筋力

を獲得することが優先だと考えています。

その上で、

競技特性やトレーニング段階によって、

パーシャルスクワットを補助的に使う。

これが現場では現実的だと思っています。

実際、レビューでも

フルスクワットをベースにしながら、

パーシャルスクワットを追加する方法が有効である可能性が示されています。  

また、シーズンインして、疲労とフィットネス(トレーニング効果)のバランスを取って行く時に、

トレーニング負荷を定量化して行く際、私は、

「重量・レップ数・セット数・可動域」で考えて行きます。

トレーニングによる可動域が長ければ長いほど、仕事量は高まるのでその分身体へのダメージも大きくなります。

それを踏まえて、

例えば、オフシーズンでは全てのプログラムでフルスクワットをやっていたのを、

シーズンインに向けて一部は可動域を制限したパーシャルスクワットにして、「疲労」を取り除きやすくするといったプログラミングもして行きます。

まとめ

スクワットは単なる脚トレではありません。

  • パフォーマンス向上
  • 傷害予防
  • 身体操作能力の向上

に関わる重要なトレーニングです。

だからこそ、

重量だけを見るのではなく、

まずはしっかりしゃがめる身体を作ること。

そしてフルスクワットを土台にしながら、

目的に応じてパーシャルスクワットを使い分けること。

私は「パーシャルスクワット」は不要ではないと考えているので、次回はパーシャルスクワットについて整理して見たいと思います。

参考文献

Comfort P, McMahon JJ, Suchomel TJ.Optimizing Squat Technique—Revisited.Strength and Conditioning Journal. 2018;40(6):68–74.

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