#6 「筋力」は力を発揮する「時間」によって種類が異なる

アスリート向け
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こんにちは。

S&Cコーチの田所海斗です。

今回はアスリートのトレーニング指導の全体像を把握する上でわかりやすいレビュー論文をご紹介していきます。

トレーニング現場で「筋力を上げる」という言葉は良く使われます。どのような身体的パフォーマンスを有しているか,にもよりますがパワーは「力×速度」なので根本的に発揮できる力を大きしていくことは必ずパフォーマンス向上の戦略に入ってくると思います。

しかしながら,この「筋力」という言葉,SNSとかを見ていると,実は曖昧に使われていると感じることもあります。

今回紹介するレビューでは,筋力は一つのものでなく,力を発揮する“時間”と“条件”によって複数に分類されるとされています。

Jamesらのレビュー[Strength Classification and Diagnosis:Not All Strength is Created Equal]では,筋力は時間特性によって複数の質に分けて捉える必要があると整理されています。

筋力は一つではない

この論文では,筋力を以下の五つに分類しています。

・最大等尺性筋力(Maximal isometrics Strength)

・爆発的筋力(Explosive Strength)

・高負荷動的筋力(Heavy Maximal Dynamic Strength)

・高速動的筋力(Fast Maximal Dynamic Strength)

リアクティブストレングス(Reactive Strength)

重要なのは,これら全て筋力という言葉を用いているけど「別物」であるという点です。

実際に,それぞれの能力は完全に一致するわけではなく,共通している部分もあるが独立した能力として存在するとされています。

何を見ているのか?

力を出す時間で考える

この分類をシンプルにまとめると,「筋力」というのは,

👉どれくらいの時間で力を出せるか

によって変わります。

例えば,

・最大筋力⇨時間をかけて最大の力を出す

・爆発的筋力⇨0.1秒前後でどれだけ力を出せるか

・リアクティブ⇨0.25秒以下で反応できるか

実際,最大筋力はピークに到達するまでに0.6〜2.5秒かかるとされています。

一方で,スポーツ動作では,0.1~0.2秒程度で力を出す必要がある場面が多い。

つまり,

👉大きな力を出す能力=速く力を出す能力,ではない。

ということです。
なので,アスリートはウエイトトレーニングで大きな力を出す能力を鍛えるし,ウエイトリフティングやジャンプのトレーニングで速く力を出す能力を別に捉えて鍛えていく必要がある,と説明されています。

アイソメトリクス筋力と高負荷動的筋力の違い

レビューの中では,筋力は一つではなく,いくつかの異なる「質」に分けて考えられています。

その中でも,現場で使い分けているのが,アイソメトリクス筋力(等尺性筋力)と高負荷動的筋力です。

アイソメトリクス筋力とは何を見ているのか?

アイソメトリクス筋力は,動きが発生しない状態でどれだけ大きな力を発揮できるかを見ています。

例えば,
・アイソメトリクススクワット
・IMTP(isometrics Mid-Thigh Pull)

のように,バーが動かない状態で最大限の力を出すテストです。
ここで見ているのは,純粋な力発揮能力に近い部分です。

論文でも,これは筋力の中でも,比較的純粋な形の力発揮として扱われています。

高負荷動的筋力とは何を見ているのか?

一方で,高負荷動的筋力はその言葉の通りですが,
動作の中でどれだけ力を発揮できるかを見ています。

例えば,
・1RMスクワット
・1RMデッドリフト
・1RMベンチプレス
といったいわゆるBIG3はこれに該当します。

ここでは,前述のアイソメトリクス筋力と違いキネマティクスの要素が入ってきます。

・力発揮能力
・動作のコントロール
・出力タイミング
・関節の連動性

など,複数の要素が関わってきます。

スポーツの現場で最大筋力を測定するとしたら,こちらの方が一般的だと思います。それは,アイソメトリクス筋力を測るための機材が必要というのもありますが,単純な「力」だけでなく,動作として力を表現する能力を含んでいるから,と考えています。

同じ「強さ」でも別のものとして見ている

この二つは関連はあるものの,完全に同じ能力を見ているわけではありません。
ここでいう「共通性」は,どちらも最大限の力発揮能力に関わっているという点です。

実際に,等尺性筋力と1RMのような高負荷同的筋力の間には,ある程度の関連があることが報告されています。(一般アスリート:約14〜50%の共通性※論文内)

ただし,その関連性は完全ではなく,状況によって大きく変わることも示されています。

例えば,
・競技レベル
・トレーニング経験
・種目特性

などによって,両者の一致度は変わります。

そのため,「アイソメトリクスが強い=動的でも必ず強い」とは言い切れなくなってきます。

つまり,
👉同じ“力発揮能力”という土台を共有しながらも
👉表現のされ方が異なる

前述の“力を出す時間“によっても別の能力とされていますが,同じような「比較的長い時間で大きな力を出す」ためのトレーニングでも,出力様式によって,別の側面を持った能力として捉える必要があるのです。

現場での捉え方

ここまで書いてきたように,筋力は一つではなく,また発揮される時間や条件によって異なる側面を持っています。

この前提を持つだけでも,トレーニングの見え方は変わると感じています。

現場では「筋力を上げる」という言葉がよく使われますが,抽象度を下げていくと,

👉どの時間帯で力を発揮したいのか

を整理しないと,トレーニングの方向性が曖昧になります。

「与えた負荷に対して人間は適応する」という原則にもある通り,そのスポーツにおいて,年間でどのタイミングにどういったトレーニング内容を処方していくかを考えていくときに「力」と「速度」のバランスを取るためにこの前提は役に立つと思います。
また,そのアスリートが,

・最大筋力を伸ばすべきなのか
・初速のような短時間での出力を伸ばすのか
・接地時間の短いリアクティブな力発揮を伸ばしたいのか

によって,選ぶトレーニングは変わっていきます。

現場での実践への落とし込み

私が現在指導しているアメリカンフットボールやラグビーではオフシーズン〜プレシーズン〜インシーズン〜ポストシーズンが他競技に比べて明確に期分けされているので,期分けごとに合わせて,筋力向上から始まり,爆発的なパワー発揮向上,試合期でのハイスピード期のようにトレーニング計画を進めていきます。

その中で,アイソメトリクス筋力発揮種目は,オフ明けの1番最初のトレーニングプログラムで使います。

前述の通り,純粋な力発揮を行うことができ,尚且つ,トレーニングを中断して再開するアスリー トに対して安全にトレーニングができることからよく使っています。
このフェーズでこの後の本格的な強化期に身体を備えさせていきます。

それに合わせて,トレーニングテクニックの再教育を兼ねて,オリンピックリフティングや基礎的なウエイトトレーニングを処方していきます。

また,「評価」に繋げるための考察に話を戻すと,論文内で説明されていることにもなりますが,
選手を見ていると,

・筋力は高いが,動作につながっていない選手
・逆に,動きはいいが出力のキャパシティが不足している選手
など,タイプの違いが出てきます。

この違いを見極めずに同じトレーニングを行うと,
改善すべきポイントにアプローチできていない可能性があります。

そのため,私はここまで書いた前提を踏まえて,

・どの時間帯の力発揮に課題があるのか?また,そのスポーツに要求される力発揮の時間に応じて優先されるトレーニングを行う
・「出力の大きさ」or「出力の仕方」に課題があるのかを見極める

チーム全体のフィジカルを向上させるために,大きくこの2点をもとにトレーニング指導に当たっています。

まとめ

筋力は単純な「強さ」だけを示している言葉ではなくて,どのタイミングでどう発揮されるかまでを含めて考えると,やはりウエイトトレーニングだけでもオリンピックリフティングだけでも足りない部分があるなと改めて感じました。
今回紹介した科学的な背景は「全体を最適化」し「より個別化」するためのトレーニング設計の根本を理解するのにわかりやすいと思い,ブログに書きました。

こういった前提を持つことでトレーニングはより具体的なものになり,選手に対するアプローチも変わってくると思います。


参考文献
James LP, Talpey SW, Young WB, et al. Strength Classification and Diagnosis: Not All Strength Is Created Equal. 2023.  

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